海外で光る日本の価値の今

北イタリアの民家 by Bradley Busetto
北イタリアの民家 by Bradley Busetto

明治初期におこった日本の美術品の大量流出とその後の西洋崇拝。そして模倣と思索の内に辿り着いた、日本回帰の運動。当時の時代背景とはうって変わり、年間1700万人の日本人が海外旅行を楽しみ、栄養状態も至極良好、言葉にもそう不自由をしなくなった現代の日本人は、世界の中の日本という知覚のアンテナの幅においては当時の人々よりもより解放され、自由になった気がする。

 

以前アメリカ人と話をしていた時に、富士山の前を駆け抜ける新幹線の写真が当時のアメリカ人社会を大きく揺り動かしたと聞いて、面白いと思った。富士山という浮世絵にも度々取り上げられて来た世界に無二のユニークな姿を持つ山の前を、現代技術の象徴である新幹線が駆け抜けるその写真に、来る経済大国の面影を感じ取ったのだと言う。保証期間が過ぎても動く日本製の時計、時間通り営業する銀行(これも世界では珍しい)、賞味期限を区切って時間管理するスーパーの食品売り場、5分遅れるだけで理由がアナウンス放送で説明される電車、一つ一つ丁寧に包装された菓子、道路に直線でくまなく引かれた歩行者用の白線などから伺える、妥協のない正確さ、徹底した几帳面さ、追求された機能性などもこれと似ている。ありえない、と彼らを驚かせる日本らしさかもしれない。

 

おもてなしの心。これを外国語に訳そうとするのは無理な試みのように思う。相手の欲していることを相手の立場で考え、微に入り細に入り先回りして行動する様は、まず海外では見かけない。高級旅館に限らず、程度の差はあってもこれが街角に普遍に浸透しているのは、日本独特の趣だと思う。

 

木の格子に石と土で出来た壁を持つ北イタリアの民家が日本的だと言われて、思わず対象を凝視したことがある。木の格子と格子の隙間が造る陰が印象的な、地球を感じさせる素朴でシンプルな美しい湖畔の民家であった。観察してみれば、無駄を省いた抽象性、木や土が持つ柔らかさ、自然と調和する建物の様子、木と木が生む陰影など、日本的な要素が不思議と詰まっていたかもしれない。異国の人々がどう日本らしさを捉えているのかを伺い知る瞬間で、興味深かった。

 

長い歴史の中で抽出されてきた私達の日本的とも言える価値は、きっと今生み出される日本のアイディアの数々の中にも息づいている。そして海外の人々に大きな影響を与えているに違いない。和食を彩る為に一つ一つ職人によって大切に手作りされる土や木の器、シンプルで機能的に美しい文房具、光りと陰の中で四季の移ろいと共に不思議に土地と共生する建物の建築など、日本に古くから伝わる価値を伝統、または新しい表現方法で捉え直したモノは、国境を超えて今何かを造り出そうとする人々のインスピレーションに確かな影響を与えている。日本は、長い歴史のユニークさを活かしているから面白いと言ったのは、まさに世界中を旅してまわった海外の友人から出た言葉であった。

 

日本が世界第二位の経済大国としての地位を中国に譲って久しい。軍事力や経済力などの強制力と対比して、文化や外交政策など相手を引きつける魅力の源泉をソフトパワーと呼び、両者の力を上手く組み合わせ成功を収めることが21世紀の情報化社会を生きる鍵だと提唱したのは、国際政治学者のジョセフ・ナイだった。この力の定義からすると現在の日本という国の力はどのくらいあるのだろう。相手に魅力的に思ってもらわなければ話にならないソフトパワーなので、まずは他者が自分のどの部分に興味を持っているのかを把握してみることも一つの策だと思う。